野暮とはこれ如何に
「見てろ」
獄寺の性器を燕がまたぐ、その股間も同じものが屹立していた。自分とは色も形も違うそれに獄寺は自然、唾を飲み込んだ。獄寺の性器を包んだ燕は自分の後孔に先端を当てた。
「な、なにす、あぁぁぁっ」
濡れたところに当てられた、と思った瞬間ぬるりと包まれた。どこにと思いつく前に性器全体が温かく包められ絞られた。ドクンと心臓が鳴ったようだったが、挿入の刺激に獄寺はのけぞって燕の中に射精した。
「そんなに俺の中はいいか?」
見上げる燕は艶然と微笑んでいた。
「…なか?」
「尻の中に入ってんだよ、おまえのが」
「はっ、…燕?」
笑いながら絞られてまたもや勃ってしまう。性欲の際限の無さに自身で怯えてしまうが、燕がゆっくりと上下に腰を動かされ目が眩んでしまう。なんだこの気持ち良さは。全てのことがどうでもよくなる。燕の腰を掴むように両手をとられ、いつしか自分の快楽のために燕の身体を上下に動かしていた。強い刺激を求めて下から突き上げると燕の顔が歪んだ。
「痛かったか?」
「いや、悦かった。今みたいに突いてくれ」
「触らなくてもいいのか?」
こんな風に、と燕の性器に触れてその熱さと生々しさに手を引いた。考えてみれば他人の性器を触るのも初めてだ。逃げる手をつかみ、燕は己を握らせた。いささか無理な角度だがそれでも獄寺の手を覆って扱かせた。
「は…あっ…」
燕の吐息が空中で零れて、ぎゅうっと生暖かく絞られて獄寺の身体も熱くなった。擦りながら下から突き上げるとビクと手の中の燕が震えた。イきそうなのだと、獄寺が強く扱くとあ、あ、とまるで女のような声を出して燕が吐精した。自分の胸から顔から飛び散る飛沫に獄寺は指を伸ばした。舐めて、その苦さに顔をしかめる。その間も燕は獄寺をしぼり上げながら動きを止めなかった。獄寺が離した性器を自ら扱いて獄寺の腹に残滓を絞り出し、獄寺を追い上げるように動く燕が唇を舐める。まるで見えない相手とくちづけを交わしているようで獄寺は胸が痛くなった。
「燕」
潤む眸に見下され、胸の痛みを紛らわすように腰を掴んで下から突き上げると燕は喉をさらして高い声を上げた。それを繰り返すうちに燕が獄寺の両肩を掴んだ。
「獄寺、上になって」
そのまま後ろに倒れる燕の上にのしかかる格好になった獄寺は、腰にまわる燕の膝をすくい上げて押しつける。引いて、また穿つと繰り返しているといよいよ燕は甲高い声を震わせた。さっきまでの傲慢な態度が消え、獄寺が突くと柔らかく包み、引くとからみついて離さない。
「…んだ、こっれ」
燕の染み一つない肩口にかみつくように上体を預け、前後に腰を動かす。腰骨が当たるが痛みなんて露も感じない。ひたすら燕の身体を貪ってうがち続ける。身体と身体が繋がるとこんな風になってしまうのだと、目の前の身体以外どうでもよくなるのだと獄寺は初めて知った。頬を傾けた燕が獄寺の唇を舐めた。獄寺は自分が相手だと、燕にわからせるかのようにしゃぶりつくように唇を合わせ舐めた。間近の燕の眸は青みを帯びて獄寺を欲していた。蕩けて揺れて、もっと気持ちよくさせて、と言っているようで獄寺は燕の膝を肩にかけて最奥に届くように自身をこじ入れた。こんなにまでも純粋に求められたことはなかった事も獄寺を追い上げた。そして、こんなにまでも言葉にならない、こんな熱さと快感にならば身体ぐらい差しだそう。頭を真っ白にして、獄寺は山本の後孔を犯した。
「ご、くでら」
名前を呼ばれて、熱く擦られた獄寺は燕の奥で爆ぜ、互いの腹で擦られていた燕の性器も熱い白濁を零した。
お互い、何度かに分けて出し落ち着いたが獄寺は立て続けに四度も放出して、腰に全身に力が入らなかった。ハァハァと荒い息が整わない。
「――獄寺、悦かっただろ?」
「なんだてめーのその自信」
動かない獄寺を押しのけて、燕は足を閉じた。仰向ける獄寺の腕の上に頭を乗せて寝転がる。
「重い。燕、重いって」
「性交ってのは後が大事なんだぜ、こうやって」
燕は獄寺を黙らせるかのように、反対に抱き込んで汗でしめる胸に押しつける。中の鼓動は未だ早打ちで獄寺はそれで我に返る。
「痛くないのか?」
「あ?何が」
「その……」
言い淀む獄寺の頭上でくすと笑いが零れる。癪に触る笑い方だと憤るが表には出せない。
「一々気にすんじゃねぇ――おまえ程度じゃ問題ねぇよ」
直接、身体的なことを指摘されて獄寺は強い羞恥を感じた。身が固くなったことで気付いた燕はその頭にくちづけを落とす。
「今日初めてのヤツなんてたかが知れているってことさ」
「なぁそれってすればするほどよくなるのか?」
「それって、どれ?」
「…寝ること」
「人を散々姦っといて恥ずかしがるな。マラも寝ることも経験積めばよくなるさ」
面倒くさそうに全裸のまま布団を被り、目を閉じる燕を獄寺は腕の中から見上げた。
「この後、おれってどうすればいい?」
「ああ、半刻もすれば呼びにくるからそれまでは寝ていればいいさ。どうせ腰、立たねぇだろ?」
「燕は?」
「次の客が来るまで寝てる」
次の客、という単語に胸がきりりと痛んだ。情が移っただけだと歯を食いしばる。そういうものだと判っていたじゃないか。
「燕」
ぽつりと呟いてみるが、自分を呼んだものじゃないとわかっている燕はピクリとも動かなかった。