野暮とはこれ如何に



 差し出された片手を受け取るように燕の前に膝をつくと、濡れた首筋に頭を寄せられた。自然と舌を伸ばす。燕の体温に温まった筋を嘗めとり、そのまま跡を追うように這わせた。ドクンドクンと脈動が獄寺を支配する。この男もそうなんだろうかと、左胸に頬を寄せる。自分のこめかみと男の中の血脈が同じ速度で流れていた。そんなことに安心する自分はどれだけ緊張しているんだと自嘲するほど落ち着いた時、背中を撫でていた燕の手が獄寺の腹を擽り性器を握りしめた。
「はぁっ……」
 突然の行為に呼吸がおいつかなかった。吐き出した息を吸い込むことを忘れるほどの衝撃だった。
 自慰行為は知っている。が、そこを自分で慰める情けなさが先に立つ上に、痛みが伴うそれに最後までしたことはなかった。そこをいきなり他人に握られ擦られる。
「あっ、…はっ……燕、痛い」
「力抜いてな」
 押し倒される。何がなんだかわからなくなってくる。腰からわきあがる鈍い快感とそれを上回るひきつれる痛み。柔らかいもので包まれるが、扱かれる度に痛さが先行する。
「やだっ、痛い、痛いからっ」
 自然、わき上がる涙を振りまいて燕の手に両手でしがみつき、ようやく止めたことに浅い息を繰り返す。
「使えるようにしてやるよ」
 覆い被さっていた燕が下肢へと移動する。籠もっていた熱さがさぁっと消え、代わりに痛みに萎えるそれが温かいもので包まれた。驚いて顔を起こすと、燕が性器を口に含んでいた。
「なっ!…何、してっ。あっ……」
 チラリと自分を見る燕の熱っぽい目に怯んだ瞬間、敏感な先端をぬるりと舌で舐められた。続いて、皮が被る境目を尖った先でなぞられもう腰からゾクゾクしたものが止まらない。燕の口の中でくにくにとしていた性器が徐々に芯を持ち始める。その先の痛さを思い出して獄寺は燕の髪の毛をひっぱって無理矢理に行為を止めさせた。
「痛いからいい」
「いいつったって、これ使えないと何も始まらないぜ」
 サッと筆で刷いたように獄寺の顔が赤く染まる。
「少しだけ痛いのを我慢しな…オレを信用、すんだろ?」
 確かにそうは言ったが、自慰行為すら痛くて止めたことがある身としては次元がちがうような気がした。
「なぁ獄寺、いつまでも子供じゃいられねぇ、だろう?」
 しかし性器に言葉が当たるたびにくすぐったくてでも、もっとして欲しくてたまらない。それでも自分からねだる方法がわからなかった。肘で身体を起こした獄寺の上を、隣の部屋からの細い光が通る。その中で先をねだる情欲に濡れる雄弁な翠玉のような目に燕は息をのみ、そして口角を上げた。
「痛いのを少し我慢したら、止まらない快楽を与えてやるから」
 獄寺の返事を待たず、小さく縮む性器を口に含んで舌と唾液で温かく包んだ。少しずつ反応を見せる中、執拗に亀頭を舌先で撫で回し充分に湿らせる。
「あっ…ああ、あ、変になる」
「…燕」
「つっばめ!ああっ!!」
 じゅるじゅると音を立てて唾液ごと性器を吸い上げ、片手で突っ張る皮を下に引いた。
「ひっ…!!」
 獄寺は鋭い痛みにたまらず燕の頭を押さえる。その間もピリピリと皮膚が破れる音がするようで、敏感な部分からひりつく痛みが増すばかりだった。
「いっ、止めろ、燕、やめっ……」
 懇願されるも燕は一切構わず唾液を溢れさせた口淫を続けた。敏感なところだけに痛みが倍にも三倍にも感じられて涙を止められない。人前で泣くことをよしとしない獄寺も身体を反らせて髪を振り乱して痛みを逃そうと叫んだ。それが、先端の露わになった括れの部分を嘗め回されると声の質が変わった。痛みが消える代わりに上回るほどの刺激が波のように押し寄せてき始めた。
「あっ…あ、や、つっば、…あぁぁっ!!」
 同じ部分とは思えなかった。痛みだけを生み出す行為が、今は快楽の神経だけが剥き出しになってそこを温い舌で舐められるだけで腰が跳ねるほど身体が痺れる。
「あっ、い、燕、なにして、…や、もっと!」
 獄寺は引き剥がそうと掴んでいた燕の髪の毛を今度は自らの股間へ押しつけた。たまらない快楽。新しく生まれた場所は、目が眩むほどの痺れを起こしてくる。
「燕、つばめっ、それ、あ、あ、……っ……」
 刻み込まれるように容赦なくしゃぶられ獄寺は止める間もなく、精を放った。耐えられない痛みから陶酔の快楽まで一気に上げられて半ば気をやってしまった獄寺は、燕が自分の上に覆い被さり白濁を飲み込み唇を舐める様を呆然と眺めていた。
「これで終わりじゃねぇぞ」
 獄寺の血の気のひいた頬を指の背で二、三度撫でるようにたたき正気付かせると視線を外さないまま敏感な性器に指を絡ませた。濡れてじっとりとしているが、数回扱かれてまた固くなり始める。他人の手でどうにでもされてしまう身体に追いつかない獄寺はされるがまま、時折身体を痙攣させては熱い吐息を零していた。燕のくちづけを受け、唇を開かさせられると冷たい酒が流し込まれる。水のような強い酒精を呑み込むと、頭を殴られたような衝撃を受けて獄寺は我に返る。冷たい酒の中、熱い舌を絡め、燕を引き寄せて腕を回すと、薄い筋肉に覆われた燕の背中を感じ自分と同じ性を持つ者だと自覚するがもう止まらない。放った精と滴る燕の唾液にまみれてぬるむ性器を扱かれ続け、そこが熱く固くなっていく。
「気分は?」
「……自分じゃないみたいだ……」
 燕の唇を貪り身体を求める。喧嘩ぐらいが他人との接触だった獄寺にとって、自分と同じように熱い体とぴったりくっつくことは安堵と劣情の両方を呼び起こした。先ほど初めてくちづけをしたとは思えないほど求められながら燕は慣れた動作で獄寺を追い上げていった。
「はっ、も、また」
「イく?」
「ん、イくっ…」
 勃ちあがる性器を燕の腰に押しつけるように自然に動く、鈴口をこじ開けるように弄られてくちづけをしながら獄寺は二度目の精を零した。最後まで出されるように扱かれて、でもそれすら感じて獄寺は勝手に腰が動くのを止められない。またイかせて欲しくて足を広げたところで燕が身を起こした。
「燕?」
 不審がる獄寺の身を起こす。自然、肘で上体を支えることになる獄寺が見たものは、じっとりと濡れた下生えの中で屹立する自分自身だった。怠惰に足を広げて赤い行灯の光の中でぬらぬらとまるで自分のものじゃないように濡れていた。
「…っ…」
 羞恥で全身が熱くなる。こんなに、はしたない格好でねだっていたなんて。そう思う端からそこを燕に握られて擦られた。
「はっ…あ、っ……」
 自分の視線すら刺激になるようで、先端の鈴口からつぷりと透明な液が沁みだしただけでイきそうになった。