野暮とはこれ如何に



 案の定待ちかねていた学友達は、飛燕堂から出てきた獄寺をすぐに取り囲んだ。
 コトの次第を聞き出そうと意気込む彼らに獄寺は「疲れた」とだけ伝えると、彼らは無言で道を譲った。疲れと混乱の中にいた獄寺は下宿の扉を閉じた後、根掘り葉掘り聞き出そうとする学友達が素直に引いたことに思い当たり首を傾げた。
 見送った、揃いのインバネスを着た学友達は顔を見合わせて、無言で互いの気持ちを確かめた。
 目元に強く残る隈から獄寺が最後までやりとげた、ということ見て取れた。しかし彼らが言葉を無くしたのは、猫背ながらもどこか潔癖な凛とした獄寺を形容しがたい色香が包み、それが何よりも雄弁で彼らから落ち着きを奪って、いた。
<了>