Un puro godiamento della vita -人生の純粋な快楽-
暗闇の中、やけに肌心地のいいシーツに包まれていることに気付いて目を覚ました。何も考えず、頬を肌をすりつけて、滑らかな感触を味わったところではた、と気付いた。
――ここはどこだ?
瞬間、眠っていた全身の感覚が起きて、見えない手のように周囲に気配を伸ばす。既に自分が全裸だというのは自覚している。
ケガはない、大型のベッド、上質なリネン、暗闇――まだ夜明け前、広い部屋と知覚していく中で何種類かの花が混じる匂いがする。横向きに寝ている自分の前方。その間にすっかり眠る前の記憶を思い出した山本はこちらに背中を向けて眠る――寝ているかどうかまではわからない――のがあの男だと知る。胃がすっきりしているところから、きっと前後不覚になった自分は吐いてそれで服を汚したかなにかで服を着ていないのかもしれない。
自分が全裸だという羞恥は無いが、酒の上での痴態は恥ずべきものがある。
とりあえず、喉の渇きを満たそうと起き上がった。
隣で身動ぐγの金髪は夜目にも鮮やかだ。そういえば、最初もそうだった。暗闇で浮かび上がる、白いシャツと金色の髪。
「あんたいい男だな」
「おまえほどじゃない」
言い合ってお互いに噴き出す。何を口説きあっているんだ、と。
「水なら冷えている。そう、そこの下」
なんとなくこちらだろうと歩いたホームバーの下の冷蔵庫を開ける。薄明かりの中にオレンジの光が差し込み、山本の裸体が浮かび上がる。ガス入りの水のペットボトルを選んで一気に半分ぐらい開ける。喉で細かい泡が弾けて爽快だ。
「迷惑かけたな」
「いや全然。こっちも見逃してもらってるから礼が出来たよ」
ってことは、ほんとにオレ吐いたんだな、と山本は頭を掻く。
「服は?」
「勝手で悪いがホテルのクリーニングに出させてもらった」
「うわぁ、わりぃな」
ベッドでこちらを見ながら肘をつく男は楽しそうに笑っている。
前後不覚の時ならまだしも、気付いた今、男と同じベッドに寝るわけにはいかない、と山本はバスルームのドアの内側にかかっていた遣われていないバスローブを羽織る。ソファで寝ようとまだ山本の暖かみが残るシーツを引き寄せた。
「ソファで寝るか?」
「あぁ」
「起きたんだろ?少し話そうぜ」
「アンタ、明日の仕事は?」
「それはおまえだろう?こっちは旅行者だぜ」
山本の脳裏に獄寺の怒鳴り声が響くが、午前中は呑みすぎて具合いが悪いことにしよう。急ぎの仕事はない。
「こっちも問題ない、なにせフリーターだ」
「なんだ、それ」
「日本語でロクデナシのこと」
「フリーター、な。じゃ、オレもそれだな」
そう言ってくっと笑うγの横に寝転がる。飲みかけのペットボトルは足下に置く。γはいつのまに火を点けたのか薄荷の匂いのする煙草をくわえていた。山本も差し出された一本を貰い、火も貰う。煙がくゆる間二人は何も言わなかった。γは山本に傍らの灰皿を差し出し、山本が吸いさしを捻り消すとその腕を引き寄せて唇を重ねた。作為的なものを感じなかった山本はγのペースにのせられて唇が合って数秒、違和感をもつことがなかったが、自分の中で飽和する花の香りに目を見開いた。
離れる直前、γの紫の眸がしなり肉厚の唇が笑いを象った。
「オレと寝てみねぇか?」
「は?」
灰皿をサイドテーブルに置きながら、再度山本の腕を引き込み、肩を引き込み唇を重ねる。
同じ煙草の味がする舌に口内をまさぐられて山本はやっと抵抗を始めようとγの肩に手をかけるが、舌を絡められ吸われて痺れを感じた。
「おまえは男に興味ねぇだろうなとは思うけど、このまま別れるにはちと勿体ねぇなって思って。それに、天国を見せてやりたいね」
抱き寄せられた耳元にベルベットの声が吹き込まれる。ボンゴレの問題児で通っている山本だが流石にそちらの経験は無かったとはいえ、優しく気を遣っている、というγの姿勢に反発心が芽生えた。
「ガキじゃねぇんだ。そこまで言うなら見せてみろ」
「そういうの、嫌いじゃないぜ」
γは山本を体の下に引き込んでキスを続ける。山本はγの肩に腕を回した。